2020年1月28日
朝日訴訟って訳あり判決なの!?ベーシックインカムって何? 社会保障特集2【やさしい政治経済講座】
前回の記事から日本の社会保障についてお伝えしています。
前回記事からご覧ください。→https://sokune217.com/2020/01/27/nenkin/
続いては社会保険のうち、「介護保険」です。
介護保険は2000年の「介護保険法」によって初めて導入された今、最も新しい社会保険です。高齢化の進展に伴って、増加を続ける要介護者に自立した日常生活を営んでもらうために給付を行うものとし、憲法第13条に規定される「個人の尊重」に立脚するものです。それまでの介護に対する公的保険は「やむを得ない」行政措置としてこのあと出てきますが、社会福祉に当たる「老人福祉法」や医療保険で対応してきました。しかし、これらでの対応は行政からの押し付けのような、利用者側に選択の余地がないものでした。介護保険に移行したことで「利用者本位」の選択によるサービスに、「自立支援」で最終的には自立した日常生活を送ってもらえるように、「社会保険方式」で明確な費用負担関係ができ、わかりやすいものとなりました。特徴として市町村が運営し、各市町村ごとに提供されるサービスが異なります。65歳以上の「要介護者」がサービスを受けられ、自己負担率は1割です。40歳以上の全国民が保険料を支払います。
続いては「雇用保険」です。
雇用保険は「雇用保険法」に基づいて国が運営しています。雇用保険では失業(離職し、働く意思と能力が十分にあるものの、職につけない)した労働者に対し、給付による生活支援と職業安定法による公共職業安定所(ハローワーク)を通じた雇用安定を行います。本人・事業主の保険料と公費で負担されており、自己負担はありません。ただ、失業者給付の受給できない失業者は77%に上り、先進国で最悪となっています。受給資格の緩和が求められています。
最後に「労災保険」です。
正式名称は「労働者災害補償保険」で業務中の負傷、死亡はもちろんのこと、通勤中のものにも適用され、負傷、疾病、障害、死亡などが該当します。働くことが難しくなったり、治療費などに対して給付を行うことはもちろん、社会復帰支援や労働環境の安全確保なども含まれます。保険料は全額事業主負担で、「労働基準監督署」が労災認定を行います。
社会保障の4本柱。2つ目は公的扶助です。
これはまさに生存権保障の骨格であり、「最低限度の生活」を保障するシステムです。1950年の「生活保護法」により、生活困窮者に対して最低ラインの生活を国の責任で保障します。
生活保護法第2条の「無差別平等の原則」に基づき、困窮に陥った理由はたとえ、ギャンブルであっても、勤労意欲がない者であっても、国民であれば適用されることになっており、これは憲法に保障される「法の下の平等」を確保するものでもあります。
しかし、生活保護法第4条には「補足性の原則」というものがあり、資産を保有していたり、家族からの扶助があるなど、生活保護以外の資金源が存在する場合には生活保護を受けることはできないということになっています。実はこの原則と生活保護支給額をめぐり、非常に考えさせられる訴訟がありました。
1950年代、結核(現在は治療可能だが、当時は不治の病とされた)により、国立岡山療養所に入所していた朝日茂さんは病気により、生活保護を受給していました。この時の生活保護は生活扶助の600円と医療扶助でした。ある時、地元の福祉事務所が兄からの扶助を受けることが可能として仕送りを命じ、兄からの仕送りがはじまったことから医療扶助の一部の支給をやめ、あくまでも生活扶助の600円で生活し、仕送りは医療費に充てるよう求めたのです。
これに対し、朝日茂さんは月600円での生活は困難だとして厚生大臣を相手取り、東京地裁に訴えを起こしました。
ここで月600円の国の計算がどのようなものであったかを見てみましょう。
衣類のうち、肌着は2年間で1枚、食事も療養所の給食でしたが、まるで犬のエサのようだったと表現されています。この時の平均賃金は2万円、コーヒーは一杯50円、牛乳1本が13円でした。
朝日さんは「生死の境にある者が兄から栄養費とも言える仕送りをもらい、栄養のある食事一つも食べることが許されず、600円のみで生活しろというのは無理があるのではないか」としたのです。
第一審の東京地裁は違法とし、原告の全面勝訴となりましたが、国は控訴。
第二審の東京高裁は600円は低いとみられるが、低いとされる不足分は70円であるため、25条違反の違憲には当たらないとしました。
朝日さんは上告しましたが、最高裁での上告審中の1964年2月14日に朝日さんは結核の悪化で亡くなりました。最高裁は死亡による訴訟終了という判決を下しました。しかし、最高裁はこれだけに止めておけば良いものを、わざわざ「なお、念のため」という言葉を持ち出し、「憲法25条の生存権はそもそも個人に直接的な権利を与えたものではなく、あくまでも国の責務として宣言したのにとどまり、適合するか、否かは厚生大臣の裁量に委ねられている」とする「プログラム規定説」を用いて、亡くなった朝日さんに対してわざわざ批判的な考え方を述べたのです。
この判決は「念のため判決」と呼ばれ、朝日訴訟での最高裁のイメージは相当悪いものでした。
最高裁判決は朝日さんにとって良いものではありませんでしたが、生活保護に対する状況を世間に知らしめたことで、その後の給付額は大幅に改善されました。
生活保護には不正受給の問題があり、それを解決する手立てとしてベーシック・インカム(BI)が注目されています。
ベーシック・インカムは所得にかかわらず、一律の額を全国民に給付するシステムで日本では一部の社会保険と公的扶助を置き換えることができるとされます。現在の生活保護では生活保護受給中に所得があると、その分だけ生活保護を減額される仕組みでワーキングプアや勤労意欲の低下につながっているとの指摘があります。ベーシック・インカムではプラスアルファの所得は給付に上乗せされる形で自らのものとなるため、勤労意欲の向上や幸福度向上、本当の意味での生存権保障ができるとされており、さらに生活保護関連の行政費用が削減されたり、少子化対策にも有効だとされています。国民民主党や経営者の前澤友作氏が推進派として知られます。
続いては「社会福祉」です。
社会福祉では、いわゆる社会的弱者、児童、母子、心身障害者、高齢者に対して公的に支援を行います。
高齢者に対しては1963年の老人福祉法や1989年の「ゴールド・プラン」で拡充が図られてきました。ゴールド・プランでは特別養護老人ホーム、ホームヘルパー、デイサービスなどの大幅拡充が行われました。
障害者(左の書き方は差別的であり、障碍者、障がい者という書き方が適切ですが、法律での記述に合わせます。)に対しては日本は対応が遅れていると言われています。2006年にバリアフリー新法ができ、社会的弱者への障壁を減らしていくことになりました。ノンステップバスや駅へのエレベーターの整備が急速に進んだ理由の背景にはこの法律があります。
また、2016年に「障害者雇用促進法」が改正され、初めて「合理的配慮」が事業者に求められました。それまでの差別の禁止にとどまらず、本人の意向に基づき、積極的な特別措置を取るよう求め、いわゆる「ポジティブ・アクション(積極的是正措置)」の考え方が出てきたのです。2012年に2005年の「障害者自立支援法」が改正され、「障害者総合支援法」が成立したものの、批判の多かった「応益負担(自らの受けたサービスに適した額を支払う)」が残されたことで障害の重い人ほど、費用負担が重いという逆進性が残ったのです。
母子、児童に対しては1999年に「育児・介護休業法」が施行され、雇用保険からの給付が受けられるようになりました。また、2019年には「幼保無償化」が行われました。
最後は「公衆衛生」です。
その名の通りで感染症の情報を提供したり、水道を整備したり、保健所を運営したりと国と自治体が様々な政策で実施しています。
2回でだいぶ長くなりましたが、私たちの生活に直結する社会保障。もし少しでも興味を持って、理解を深めていただけたなら幸いです。
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